コブニティブコンピューティングを追うIBM! Googleはクォンタム(量子)コンピュータか!

掲載者:CUPA総合アドバイザー 森 洋一

=Watsonの登場!=
IBMのWatsonを核に、その後を展望した本「スマートマシンがやってくる(原版-Smart Machines)」が出た。その出版記念で共著者のIBM Steve Hamm氏と同東京基礎研究所所長の森本氏から話を聞くことが出来た。この本は実際にはIBMの研究部門を担当するSenior VP John E. Kelly Ⅲ氏がスケルトンを描き、ライターのHamm氏が多くの関連者をインタビューして書きあげたもののようである。Hamm氏によるとプロジェクトの名前はIBMの初代社長Thomas John Watson, Sr.氏にちなんだものである。

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それだけIBMの賭ける思いは強い。氏はコンピュータの変遷の初期は、簡単な計算機だった。第2期は現在広く使われているプログラマブルなコンピュータ(Von Neumann)。しかしこの方式は次第に行き詰まりを見せ始め、これからは認知・認識や推論ができるコグニティブコンピューティングCognitive Computing(CC)へと進展していくとし、世界中の同社研究所で研究中だと力説した。IBMはこのCC技術をリードし、業界の主導権をかつてのように取り戻したいように見える。初のWatsonは全米で人気のクイズ番組Jeopardy!に挑戦するために開発されたもので、IBM Power 750のラック10本分に15TBのメモリーと2880個のPOWERプロセッサを搭載したLinuxのHPCである。処理性能は80TFLOPS、インターネットには非接続でWikipediaなど2億ページ分のスキャンデータを抱えていた。IBMではこのような社内の技術的士気を鼓舞する取組みをGrand Challengeという。チェスの世界チャンピオンを破ったDeep Blueが前例だ。そして2011年1月14日、IBM Researchのホールでデモを披露し、2月の本対戦(15‐16日)では元グランドチャンピオンのBrad Rutter氏とKen Jennings氏を相手に初日は引き分け、翌日を合わせた総合でWatsonが勝って賞金100万ドル($1M)を獲得した。

=スマートマシンがやってくる!=

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この成果を受け、IBMは多面的に動き始めた。クイズ番組でのWatsonに次いで、医療やコールセンタなどの様々な分野の専門家の協力を得てソリューション開発を進めた。これらのソリューションは人間にとって替わるのではなく、医師や専門要員の補助をするコグニティブアシスタントを目指している。Jeopardy!では自然語処理と検索技術や推論が主だったが、今度はBigDataの対応がポイントとなった。森本氏によれば、我々の周りでは日々5 億枚の写真が世界中でシェアリングされているし、日本だけ見ても、コールセンターの累積記録は70万時間/日、さらにセンサーによるデータの機械作成が進んで2020年には全体の40%強を占めるようになるという。この本では、このような膨大なBigDataの対応には4つのV(Volume、 Variety、Velocity、Veracity)を越えなければならないと説き、そのためには新たな分析技術であるEntity AnalysisやPervasive Analysisの確立、またVon Neumannコンピュータとは異なるデータを基本とした処理体系への変更が重要だとして、Data Centricな処理DC²(Data Centric Deep Computing)の開発にも着手。さらにハードウェア分野では脳の神経細胞のニューロンとそれらを連携させるシナプスをチップ化し、人間の五感を感じ取る新しいコンピュータの開発も始まった。

=GoogleはNASAと共同でクォンタム(量子)AIラボを開設=

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D-wave-two

CC対応ではMicrosoftなども動き出したが、要注意は音声認識に力を入れているGoogleだ。Googleの場合、一般に知られているこの分野のプロジェクトにGoogle Self-Driving Carがある。これこそCognitive Assistantの進化形といっても良いだろう。これとは別にGoogleは今年に入って興味ある関連企業を幾つか買収した。
中でも圧巻はチェスの天才少年だったDemis Hassabis氏が起業したDeepMind Technologies (推定買収額$625M-625億円)。この会社はニューロサイエンスを利用したAIを手掛け、画像などのイメージ検索に使うのではないかとの噂が高い。そして今年5月16日、GoogleはQuantum Artificial Intelligence LabをシリコンバレーのNASA Ames研究所と共同で開設すると発表した。プレスによると、このラボではクォンタムコンピュータ(QC -Quantum Computer‐ 量子コンピュータ)を開発するカナダのスタートアップD-Wave Systemsのマシンを使い、全体をNASA Amesがリード、宇宙関連研究組織USRAを通して世界中の研究者を招待し、医療や検索などのより良いモデルを開発する予定だ。

=どちらが勝つのか=

GoogleのアプローチはマシンこそQCだが基本は機械学習のAIのようだ。そのためにDeepMindを用意した。これらを素材として世界中の研究者に色々弄ってもらい、QCの実用化の可能性や新たなモデル開発を目指している。これに対してHamm氏は、CCはAI(Artificial Intelligence-人口知能)の一種ではなく、それを超えたIA(Intelligence Augment-知性増加)だという。つまりAIには静的(機械的)なものと動的なものがあるが、CCはそれらを凌駕するものとIBMは期待している。しかし初代のWatsonはLinux上で動くプログラムとして作られている。即ちWatsonは多分マシンラーニングの静的AI段階の Application Architectureであって、まだComputer Architectureを変更する域には達していない。勿論、近未来にCCが確立されればVon Neumannを超えるものになるかもしれない。はっきりしていることはBigData時代のコンピューティングは変わらなければいけないということだ。 現IBM CEOのロメッティ女史(Ginni (Verginia) Rometty)は、BigData時代はゴールドラッシュのように数年で終わるものではなく、これこそ現代の天然資源でどうやって掘り起こすか、その回答がWatsonへの期待だという。IBMは既にWatson APIをデベロッパに公開し、SoftLayer上への展開を決めている。一方、GoogleはGoogle I/O 2014でこれまでのMapReduceに替わり、新たにストリーミング分析にも対応できるCloud DataFlowを発表した。ともあれ、CCやQCの開発は簡単な道のりではない。かつてTim Berners-Lee氏が提唱したセマンティックWebは上手くいかなかったし、6月中旬のGoogleのテストでD-Wave Two機は期待するスピードが出なかった。今後は、東海岸のストライプタイ派が総合力を発揮するのか、西海岸のジーンズ組が実利を手に入れるのか、彼らの健闘を注視したい。