OpenStack 7番目のリリース発表で勢いに乗る

掲載者:CUPA総合アドバイザー 新野 淳一

4月中旬にオレゴン州ポートランドではOpenStack Summitが開催されています。そのせいか4月はOpenStack関連のニュースが続きました。Publickeyの記事から動向をまとめました。

OpenStack、7番目の新バージョン「Grizzly」がリリース。ESX、KVM、XEN、そしてHyper-Vのサポートが追加

オープンソースで開発されているクラウド基盤ソフトウェアのOpenStackの7番目となる新バージョンの「OpenStack 2013.1」、コード名「Grizzly」が4月4日にリリースされました。Grizzlyでは、ハイパーバイザとしてESX、KVM、Xenに加え、新たにマイクロソフトのHyper-Vをサポートするようになりました。これで主要なハイパーバイザの混在環境でのクラウド構築を実現できるようになりました。公開されているリリースノートから、主な新機能をピックアップします。

スケーラビリティや可用性の向上

コンピュート機能(Nova)では、スケーラビリティを拡張する新機能の「Cell」が搭載されています。Cellは大規模に分散されたデプロイを実現する機能で、地理的に分散された複数のセルを統合して管理できる機能と説明されています。アベイラビリティゾーン機能は、これまで設定ファイルでしか設定できなかったものがAPIで設定できるように拡張されています。MySQLコネクタの性能も改善されているとのこと。オブジェクトストレージ機能(Swift)にはクオータ機能が追加。CORS(Cross-Origin Resource Sharing)に対応したことで、ブラウザからオブジェクトストレージのリソースへ直接アクセス可能になります。ブロックストレージ機能(Cinder)ではファイバーチャネル経由のアタッチが可能になり、Swiftへのバックアップも実現。EMC VNX/VMAX、HP 3PAR、GlusterFSなどのドライバが新しく追加されています。ネットワーク機能(Quantum)では、DHCPサーバの分散配置による高可用性を実現。セキュリティグループの追加や、ロードバランスサービス(Load-balanceing-as-aService)の提供などが追加されています。また、Quantumに対するプラグインとしてBig Switch、Brocade、Hyper-V、Midonetなども追加されました。そのほかにも多数の機能追加が実現されていますが、全体としてはさらなるスケーラビリティと可用性の向上にポイントが置かれたと見ていいでしょう。

PayPalがVMwareからOpenStackに移行する理由は「可用性を犠牲にすることなくスケーラブル」だから

8万台ものサーバを、VMwareの製品で構築されたシステムから、オープンソースのOpenStackベースのプライベートクラウドへ移行すると発表されたPayPalの事例は、OpenStackの勢いとオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアの成熟を示すものとして注目されています。OpenStackのWebサイトで公開された事例では、OpenStackへ移行する理由が次のように説明されています。

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A key component of the selection criteria for PayPal’s cloud infrastructure was the ability to scale quickly without compromising availability. For its engineers and developers to be successful, the platform had to support PayPal’s requirement of 99.9999% availability.
(略)
To meet this demand, PayPal decided to build its private cloud infrastructure with OpenStack.

PyaPalのクラウド基盤を選択するもっとも重要となる要素は、可用性に妥協することなくすばやくスケールする能力だ。エンジニアやデベロッパーがこれを成功させるには、プラットフォームがPayPalの要件である99.9999%の可用性をサポートしなければならない。
(略)
この要件を満たすため、PayPalはプライベートクラウド基盤の構築にOpenStackを用いると決断した。

企業がオープンソースを採用する理由の多くで、価格が安いことや技術的にオープンなことが挙げられがちですが、PayPalのOpenStackの採用理由が「可用性に妥協することなく、すばやくスケールする能力」であることは、OpenStackの技術的な成熟を暗に示しています。オンラインペイメントで世界最大級のインフラと言っていいPayPalがこのような判断を下したことは、OpenStackを検討する多くの企業にとって、そしてVMwareの製品群も検討する多くの企業にとっても大きな意味を持つことでしょう。

PayPalは単にVMwareを置き換えるわけではない

VMwareにとっては不都合なこの事例ですが、同社のCloud Infrastructure Platform担当シニアバイスプレジデントのBogomil Balkansky氏は、この件についてブログに「Partnership, Choice and the Hybrid Cloud」という記事を書いて取り上げました。この記事の中で、PayPalのPlatform Engineering & Operationsバイスプレジデント、Nat Rajesh Natarajan氏がVMwareに向けた、次のようなコメントが紹介されています。

Our initiative with OpenStack is intended to enable agility, innovation and choice. We’re not interested in a “rip and replace’ approach. In fact, this collaboration will help us utilize robust virtualization technologies such as VMware. They are a valued PayPal partner, and we intend to continue leveraging their core strengths in our cutting edge cloud environment.

私たちのOpenStackへの取り組みは、アジリティとイノベーション、そして選択を目的としています。私たちは“取り去って置き換える”ようなアプローチを採るつもりではありません。実際のところ、このコラボレーション(訳注:PayPalとOpenStackのことと思われる)は、VMwareのような頑強な仮想環境の活用を助けてくれるでしょうし、私たちは先端的な環境においてはそれらの中核的な強みを活用していくつもりです。
もちろんVMwareへのリップサービスが含まれているとは思いますが、VMwareをOpenStackに単純にざっくりと置き換えるつもりではない、という意図を明確にしています。

VMwareはヘテロな環境へ向かう

VMwareにとって明らかなのは、顧客のクラウド環境がVMwareだけでなく、Hyper-VやXenやKVMといった多様なハイパーバイザ、OpenStackやCloudStackなどの多様な基盤ソフトウェアといった混在環境になっていくことです。ブログを書いたBogomil Balkanskyもこのことを認識し、VMwareはヘテロな環境のサポートに向かうことを強調しています。

To serve our customers, VMware has made important decisions. We support heterogeneous cloud environments—this is the reality of most of our customers’ environments, and they need to manage and automate this complexity quickly and efficiently.

顧客へ奉仕するために、VMwareは重要な決断を下した。私たちはヘテロジニアスなクラウド環境 ― これが多くの顧客のクラウド環境における現実であり、そして彼らはこの複雑さをすばやく、効果的に管理、自動化が必要だと考えている。

VMwareはすでにOpenStackの支援を表明

実は、VMwareは昨年8月の時点でOpenStackプロジェクトへの参加を正式に表明しており、OpenStackを支援する立場にいます。また昨年、DynamicOpsを買収したのも、混在環境に対応するためであることを表明していますし、PaaSレイヤで展開している基盤ソフトウェアのCloud Foundryも、AmazonクラウドやCloudStackなど、VMware以外のクラウド環境への対応を進めています。

Arista Neworksがスイッチ製品とOpenStackをネイティブに統合すると発表

OpenStackの新バージョン「Grizzly」発表に合わせて、OpenStackのネットワーク制御機能であるQuantumへネットワーク機能を統合したという発表がいくつか行われました。その1つがArista Networksです。サン・マイクロシステムズの創業者の一人だったアンディ・ベクトルシャイム氏が立ち上げた新興スイッチベンダのArista Networksも、すでにOpenFlow対応スイッチを発表していましたが、さらにSoftware-Defined Network対応を進めるためとして、スイッチ内で実行されている同社OSを、OpenStackに統合すると発表しました。プレスリリースから引用します。

Arista Networks today announced the next phase of its Software Defined Networking (SDN) offerings by integrating Arista EOS™ (Extensible Operating System) natively with OpenStack, the leading open-source cloud provisioning and orchestration system.

Arista Networksは本日、Software Defined Networking対応の次のフェーズとして、Arista EOS(Extensible Operating System)を、オープンソースのクラウドプロビジョニングとオーケストレーションシステムであるOpenStackに、ネイティブに統合することを発表します。

ミドクラ、MidoNetの製品版をリリース

ネットワーク仮想化ベンダとして日本のスタッフを中心に2010年に起業したミドクラも、同社にとって最初の製品となる「MidoNet」のリリースを、先週オレゴン州ポートランドで開催されたOpenStack Summitで発表しました。プレスリリースから引用します。MidoNetは標準的なIPネットワーク上で動作しながらも、知能を各エッジ側に配置しオーバーレイ型の仮想ネットワークを構成する事ができることです。このアーキテクチャーによりあらゆる企業のIaaSのネットワーク環境を多くの機能を備えた安全性の高いスケーラブルな仮想化ネットワーク環境に革新する事ができます。OpenStackはIBMが自社のクラウド基盤ソフトウェアにすると発表していますし、HPやDellなどのハードウェアベンダも積極的に支援しています。いまもっとも勢いのあるクラウド基盤ソフトウェアと言っていいでしょう。