新たなIT戦略におけるオープンデータとビッグデータ、クラウド

掲載者:CUPA総合アドバイザー 林 雅之

高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)は5月24日、第2次安倍晋三内閣の「新たなIT戦略」として、『「世界最先端IT国家創造」宣言(案)』を公表し、2013年6月に閣議決定しています。「新たなIT戦略」において柱の一つとなっているのが、政府や自治体などの公共機関が保有する公共データの民間開放(オープンデータ)の推進と、ビッグデータの利活用推進(パーソナルデータの流通・促進など)です。公共データにおいては、データのオープン化を原則とする「open by default」の発想転換を行い、政府や独立行政法人、地方公共団体などが保有する多様で膨大な公共データを、機械判読に適したデータ形式で、営利目的も含め自由な編集・加工などを認める利用ルールに基づき、インターネットを通じてオープンデータとして公開する方針を示しています。

オープンデータとは何か

政府が推進するオープンデータとは、狭義では政府や自治体などの公共機関がオープンに提供可能な行政情報、広義では政府や自治体などの公共機関だけでなく民間事業者や個人などが提供する機械判読に適したデータ形式で提供される二次利用可能な公共性の高いデータです。オープンデータは、政府や自治体などの行政の見える化や行政サービスの向上とともに、民間事業者などがオープンデータを活用することで、新しい産業の創出や客観的なデータ指標による地域や社会の課題解決などへの活用にも注目が集まっています。欧州では、EU圏内のオープンデータを活用した市場規模を320億ユーロ(4.2兆円)、経済波及効果は約1400億ユーロ(18兆円)と算出している。国内総生産(GDP)比で日本に置き換えると市場規模は約1.2兆円、経済波及効果は約5兆円程度のインパクトがあると推定されており、オープンデータを通じて付加価値を提供していくことで、ビジネス創出と大規模な経済波及効果が期待されています。

公共データ1万以上のデータセットを目指す政府のオープンデータ政策

政府では、地理空間情報や防災・減災情報、調達情報、統計情報などの行政機関が保有する公共データを、オープンなプラットフォームであるデータポータルサイトなどを通じてオープンデータとして公開し、民間企業や個人が保有する地理空間情報などのデータと自由に組み合わせて利活用することで、新産業・新サービスを創出する社会を実現していくことを目指しています。オープンデータの推進にあたっては、「電子行政オープンデータ推進のためのロードマップ」を策定・公表しています。ロードマップでは、2013年度中に各府省が公開する公共データの案内や横断的検索を可能とするデータカタログサイトの試行版を立ち上げ、2014年度から本格運用を実施する計画を立てています。2015年度中に、世界最高水準の公共データ1万以上のデータセットをオープンデータとして公開していくことを目指しています。

医療など公共各分野でのデータ活用を支援

本戦略では、データというキーワードが100を超えるなど、さまざまな分野において、公共データのオープン化やデータを活用した行政サービスの効率化、社会インフラの維持、新産業の創出などを目標に設定しています。医療分野では、保険者や地方自治体、企業が健診データやレセプトデータなどの医療・健康情報から健康状況などを把握・分析し、医療情報データベースを活用した医薬品などの安全対策に関する取り組みを推進するなど、データに基づく具体的な保健指導や、個々のライフスタイルに応じた適切な健康増進や発症・重症化予防の取り組みを推進しています。政府が2013年6月14日に公表した「健康・医療戦略」では、すべての健康保険組合に対して、レセプトや健診結果のデータを分析し、一人ひとりに効果的な保険指導を行う「データヘルス計画(仮称)」を策定し、事業実施や評価などを義務付ける予定です。農業分野では、農業の現場の計測などで得られる多くのデータを蓄積・解析し、高い生産技術を持つ篤農家の知恵を人材育成や、小規模農家も含む多数の経営体で共有・活用し、収益の向上など、農業データを多面的に利活用する新たな生産式の構築に取り組んでいます。老朽化していく社会インフラにおいては、社会インフラの維持管理・更新に必要なデータを体系的に把握し蓄積するため、2013年度から各施設の現況データなどのデータベース化を進めています。これらのデータを統一的に蓄積し管理するプラットフォームを構築し、2014年度から一部運用を開始。2015年度以降は、機能強化を図り本格運用へ移行していく予定です。公共分野で、注目されているのが、動的でアルタイム性の高いストリームデータであるセンサデータの活用です。センサデータには、温度・湿度センサー、CO2・花粉センサー、加速度・振動センサー、湿度・温度センサー、水分・流量センサー、熱量センサー、濃度・粘度センサー、圧力センサー、ひずみセンサー、光(赤外線)センサー、磁気センサーなどがあります。センサー技術とワイヤレスネットワークの進展により、ネットワークに繋がる設備や機器が人間を介在せずに相互に情報交換を行う M2M (Machine to Machine) や IoT (Internet of Things) と呼ばれるサービスの利用が様々な分野で進んでいます。これらの大量のストリームデータを収集しデータを分析することによって、起きている事象をリアルタイムに把握し、農業や都市計画、環境対策、防災、資源管理、危機保全、気象・大気観測、医療、国土保全といった分野において、異常発生予測などの事象予測や新サービスの創出が見込まれています。また、全国の橋や道路、水道といった社会インフラが一斉に寿命を迎える国土基盤ストックの維持管理や更新費用は今後増加を続け、2020 年には約12 兆円になると予測されており、センサデータを用いて効率的なインフラの維持管理にもつながるとされています。交通分野では、車と車、道路と車、車と人などが相互にタイムリーな情報交換を実現できるように、地図情報や車および人の地理空間情報などのデータを蓄積し、ITS(Intelligent Transport Systems)技術の活用により、交通事故の危険や交通渋滞を回避し、安全で環境にやさしく経済的な道路交通社会の実現を目指しています。民間調査会社の富士経済の調査によると、2012年の世界の新車に占めるインターネット常時接続車の割合は1割未満の762万台にとどまるものの、2025年には10倍以上の8564万台の全体の約7割に拡大し、将来はネット常時接続が主流になると見込まれています。

新たなIT戦略推進のためのビッグデータ、オープンデータの位置づけとクラウド活用

新たなIT戦略では、「ヒト」「モノ」「カネ」と並び「情報資源」であるビッグデータやオープンデータが新たな経営資源になり、情報資源の活用が経済成長をもたらし、社会の課題解決の役割を担うと位置付けています。ビッグデータやオープンデータによる分野、領域を超えた情報資源の収集、蓄積、融合、解析、活用により、新たな付加価値を創造し、変革のスピードを向上させ、産業構造や社会生活において新たなイノベーションを可能とする社会構築の重要性を示しています。データセットやサービス機能の民間開放と官民協働による利便性の高い公共サービスの創造、行政の効率化、見える化、さらには農業、医療、健康、エネルギーなどさまざまな分野においてのデータとクラウド活用が進むことで、クラウドは社会インフラを支援する役割としての存在感を高めていくことになるでしょう。